田村 正之(作家名は田村優之)
高松高校 昭和55年卒

プロフィール

高松高校を昭和55年卒業
早稲田大学卒業後、日本経済新聞社入社

著書

「株主の反乱」(共著 日本経済新聞社1993)
「企業活動の監視」(共著 岩波書店1994)
「ゆらゆらと浮かんでは消えていく王国に」(TBSブルタニカ1998)
「夏の光」(ポプラ文庫2007)
「月の虹」(日本経済新聞社2010)
「青い約束」(ポプラ文庫2012)

開高健賞

平成10年1月に、「ゆらゆらと浮かんでは消えていく王国に」(TBSブルタニカ)で、第7回開高健賞を受賞。

作品は、バブル経済末期の1991年の東京が舞台。
主人公は、大手経済誌の記者であり、その主人公が住む佃のマンションで、1人の男(蓮見)が飛び降り自殺をする。
2人は同じ高松の出身であり、様々なつながりがあることが次第に分かってくる。
その2人の過去の接点を発見するまでを、東京という巨大都市のもつ、かげろうのようなはかなさ、危うさをうまく表現しながら描かれている。

ところで、小説の中で次のような一文があります。
「この街の空気に潮の香りが満ちていることを、圭一は故郷を離れた後で気づいた。高校まで18年間暮らしていたのに、そのころは何も感じなかったのが不思議だった。」
まったく同感です。
最近は、高松に帰る度に海の匂いに気づき、こんなに海が近かったのかと思い知らされます。
高高にいたときには、何にも感じなかったのに。

受賞の言葉

「東京という巨大な幻影」(開高健賞発表資料より)

東京で学生生活を始めた19歳のころ、この街に対して奇妙な違和感を持ったのを覚えています。その感覚は、バブル経済末期のころのさらに大きく膨れ上がりました。
心臓が止まりかねない勢いで走り続ける人々が住み、やみくもな膨張を続ける都市。ビルがきらきらと美しく変わって行く一方で、地価の異常な高騰で都心部から人の姿が消えて行きました。
当時、23区内で個人の土地保有割合が年々減少、代わりに法人の保有割合が急ビッチで高まっていった記憶があります。
人々が歯を食いしばって走り続けることが、個人が家さえも取得できない状況を生み出すというばかげた結果になりました。
日本の経済社会を構成している会社本位主義と土地本位主義。これらの歪んだシステムが、そんなシステムを作り上げた人間に復讐し始めたようにも見えました。

人々はどこを目指して走り続け、この都市は何のために膨張を続けるのか。きらきらした夜景に沈んでいるものは美しい夢なのか悲しみのうめき声なのか。そして自分たちが目の当たりにしているのは、もしかすると巨大な幻影に過ぎないのではないか。
 そんな事を考えながら書き始めたのがこの小説です。

執筆を始めたのはもう7,8年前だったと思います。
しかし、仕事がやたら忙しかったうえに、酒や遊びなど様々な欲望に対して抑制の効かない猿のような性格のため、遅々として筆は進みませんでした。
最終選考の残ったという知らせを頂いた昨年末は大型倒産が相次ぎ、日本の経済社会に不気味な崩壊の足音が聞こえ始めていました。今後自分たちが新しいパラダイムをうまく作り上げていけるのか、少し不安です。

多分、いろいろな点で欠点の目立つ小説だろうと思います。
それでも、今の自分としては一応のベストを尽くした結果です。発表できるというそれだけで、とても嬉しく思っています。
本当にありがとうございました。