安藤 隆章(あんどう・たかあき)ペンネームは安藤カーキー
高松高校 昭和44年卒

プロフィール

高高では剣道部の主将として活躍
広島大学中退後、今村昌平の映画学校に学ぶ。
現在は、フリーのディレクターとして、「農業」「アジア」「元気」をテーマに、幅広い映像活動を展開している。

監督作は、「にっぽんの夫婦『農家の嫁と呼ばないで』」(NHK総合)、「月曜女のサスペンス『天竜川殺人事件』など多数。

著書に、「楊貴妃に恋した男たち」がある。
また、「東京都写真美術館」「三菱農機」などのビデオ制作を手がけている。

有機農産物の「表示」を考える
(日本農業新聞に掲載されたものであり、安藤さんの活動の一端が分かると思います。)

≪ニセ「有機」ブランド品≫
 本物の有機農産物がいったい日本にどれだけあるのか。実はゼロと言っても過言ではない。消費者はニセ「有機」ブランド品をありがたく買っているだけだ。

農水省が昨年12月に改訂発表した有機農産物ガイドラインによれば、有機農産物とは3年以上無農薬、無化学肥料の畑で収穫された農産物を指す。消費者にはピンと来ないだろうが、これは厳しい基準である。 基準を満たす農家は全くないとは言わないが、全国350万農家のうち千戸以下だろう。しかも、自給に近い小規模農家が中心だ(米国でも認証をクリアした農家はわずか約4千戸。)。

 じゃ、スーパーに並んでいるあの「有機」農産物とはいったい何なのか。ここで農業関係者は沈黙する。厳密な意味で「有機農産物」ではないけれど、「有機的」と解釈した生産物を勝手に有機野菜として売っているのが実情だ。
 「無農薬」だけど殺虫剤や除草剤を使った野菜や、15回散布する農薬を14回に減らした「低農薬」の果実を「有機」と称して売る。しかも表示に責任機関名がないから、うそをチェックできない。正直者の農家がばかを見て愚かな消費者がだまされる。こんな事が続いていいわけがない。

 農薬、化学肥料を一切使わないで3年以上たった田んぼや畑。それはきっと美しい光景だろう。環境保護から言えばベスト。夢のような世界だ。欧米でも有機ほ場は全農地の0.1~1%だと聞く。 認証基準だけどうしてこんなに盛り上がっちゃったのか、不思議だ。多分、この基準は今は現実離れしているけど、切実な未来像を示している。

≪本気でやれば農業革命≫
 例えば日本が「有機農業国家」を宣言したら、正直、世界に誇れる素晴らしいことだと思う。
 「有機農業国家」宣言を採択するかどうかは、国民投票に問えばよい。いま論議中の新農業基本法も、第一条「日本は、有機農業を農業施策の基本とし、世界に範たる環境保全国家を目指すことを宣言する」となればカッコイイことこのうえない。

 日本が有機農業国家へ転換するためには生産者支援が必要だ。
 農薬漬けの日本農業が有機農業に転換することはただ事ではない。それを成し遂げるために、転換中は収穫が半減するであろう農家個々への直接保証が重要だ。ドイツをはじめとする諸外国のように、国家的な有機農業保護政策がなければ、ガイドラインは絵にかいたもちでしかない。下手をすると、生産農家にだけ無理難題を押しつける農家つぶしになりかねない。

≪組み換え作物も表示を≫
 話を表示に戻そう。
 「有機農産物」の表示はだれのために必要か?。「消費者」のための基準だと割り切ればいい。消費者は何を求めているのか、食べ物の安全性だ。安全性の基準とは、農薬や化学物質や遺伝子操作の有無だ。

ガイドラインの本質は、消費者に対する生産情報の公開である。
 ガイドライン私案を示す。
 ①農薬や化学肥料を三年以上全く使っていない農産物=「有機農産物」②農薬や化学肥料を三年以下全く使っていない農産物=「準有機農産物」③農薬や化学肥料を使用した農産物はその使用をすべて表記する=「(名称なし)」。以上3種類で十分だと思う。

 国産と輸入物は分けて表示するべきだと思う。
 ①の場合、輸入物は「オーガニック」と表示し、国産のみ「有機農産物」と漢字表示する。②も同様。③は、海外産で使用農薬などの表示がないものは輸入不可としたい。
無農薬や減農薬、特別栽培などの紛らわしい名称は一切やめる。遺伝子組換作物も表示する。

≪認証団体作りが急務≫
 日本の農業現場は、基準の是非、表示基準をめぐり多様な考え方が存在する。生産者グループ、農業団体、自治体などそれぞれ対応が違う。
 問題は農水省のガイドラインは単なる目安であって、罰則も検査もないこと。
 日本は有機農産物に対する国際基準(ルール)を持っていないのだ。これは国際的に見て非常にまずい。WTO(世界貿易機関)の交渉に勝てない。

 日本でも認証団体を作り、検査官を使った認証作業ができなければ、ガイドラインをめぐる話は非常に空しいものになる。欧米など民間の国際的認証機関に認証を委託するか、それらと連携した認証団体の設立は当然の流れだと思う。
 今回の有機農産物表示の問題は、国内問題にとどまらない。公的国際認証機関CODEXなど世界の動きに注目したい。世界の中で日本農業を孤立させてはいけない。例えばWTOに勝つための「戦略」という視点から、今一度表示問題を見直すことも必要ではないだろうか。